(仮説だが、流行の最先端でこの言葉を使い始めて、使い続けている人は「MEN(‘S)」、世の中の若者を真似して使うようになった人は「面」と認識しているのではないかと考える。)
次に「面」について考える。
「面」を使った慣用句には「面通しをする」、「面が割れる」、「面食い」などがあり、熟語には「面会」、「面談」、「面接」、などがある。前者には俗っぽく、下品なニュアンスが漂い、
後者の言葉ではどことなく公式手続きを感じさせる。
慣用句の場合、庶民の生活や職業上の行動のために、元々の漢語「面」に大和言葉の動詞を接続させたのだろう。「面食い」は女性側から見た恋愛対象選択に使われる言葉なので、「イケメン」の「メン」との連想がスムーズに働く。
「面会」などに使われる「面」は話しかける方も答える方もどことなく「お面」、「仮面」を被った公式行事を感じさせる。お互いの本音をさらけ出すには一回では無理であり、何回も「面」して初めて「仮面」の下の「本当の面」が見えてくる。
公式度、重要度を測ると、面会<面談<面接 となるであろう。
ところで、「仮面」とはなんだろう。
「仮面」の役割はドイツの民族学者、リヒアルト・アンドレーが19世紀末に発表した論文によると、
(1) 祭祀用、(2)戦争用(威嚇)、(3)死者用(守護)、(4)裁判、結社用(制裁)、(5)舞踏用
となる。
そういえば、「面会」、「面談」、「面接」には意識せずとも、儀礼、威嚇や制裁、守護の要素があり、人々は程度の差こそあれ、防備をしてこれらの会合に臨む。目に見えない仮面を被っているから、本当の「面」を見るためには何回も会合を実施しないといけないのだ。
また、17世紀初めの日葡辞書(*)には「MENBOKU(面目)」の意として「名誉」がある以外に、「MENMOKU(面目)」は「顔立ちの良い人」として説明されており、後者が原義のような感じがする。
4世紀の時空を超えて、本来の「面目」が「イケ面」として、復権を果たしたと言えそうだ。
「イケメン」からは「イクメン」という言葉も派生した。「面」を感じる人が減るような気もするが、「面」の勢力もまだ根強いと思う。「イクメン」の「メン」が「MEN」だとしたら、もはや顔立ちの意が消えてしまうからだ。
まあ、何はともあれ、世の女性方よ、イケメンの下に隠れている本質を見失わないようにしてほしいものだ。
(*)当時来日した宣教師たちが編纂した日本語ポルトガル辞書
参考文献:堀井令以知2003「日本語の意味変化事典」東京堂出版
大林太良1998「仮面と神話」小学館
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