この夏、政治・経済のニュースを伝えるTV画面ではノーネクタイの政治家や経営者をよく見かける。
閣議や各種委員会の場面では全員紺の背広にノーネクタイというクール・ビズ対応「制服」を着ていることもあった。また、どこかの組織が何か不祥事を起こした時の謝罪会見でもノーネクタイの場合があり、隔世の感がある。
先日までオリンピックが行われていたロンドンでは8月の平年の最高気温は23°C程度で、東京より10度くらい低い。これは真夏の東京の最低気温よりも低いのだ。真夏に欧州と同じような服装をすること自体がおかしかったのだ。
そもそも、このクール・ビズという言葉、2005年に小池百合子環境大臣(当時)が小泉純一郎首相(当時)と相談して提唱したことに端を発しているが、見事に国民に定着した。
この新語、元々はグンゼが提案した言葉のようだ。
1990年代、欧米の若者が「クール」(cool[ku:l])という単語に「カッコいい」という意味を持たせることがよく知られるようになってきていたが、手許の英和辞典(1991年)のcoolにはまだ「カッコいい」の意味はない。
その後、日本のアニメのクウォリティの高さを表現するのに欧米の若者が「cool、cool」と言い出し、一気に語感が良くなった。
ビズ(biz[biz])はもちろんビジネス(business[bizn?s])の略だが、これは以前から英和辞典に載っている。「クール・ビジネス」とか、「クール・ビジ」などとしなかったところにセンスの良さを感じる。日本語は開音節構造と言って、単語は母音で終わるのが原則である。「ビズ」もはっきりと発音しようとすると母音つきの[biz?]となるところだが、会話の中の自然な発音では[biz](閉音節)となり、歯切れがよくなる。
さらに、服装用語だからと言って、「クール・ウェア」とか「クール・ファッション」、「クール・カジュアル」などとしなかったことも普及の要因であろう。服装を「クール」にするだけではなく、仕事も「クールに」(カッコよく)というニュアンスが含まれた。
「カジュアル・デー」はそれまでも一部の企業で実施されていたが、この言葉にはなんとなく、「その日は仕事も緩く」的な雰囲気が漂っていた。それにひきかえ、「クール・ビズ」は引き締まった感じがする。
ところで、この言葉の普及以前に「省エネルック」という言葉で大平首相(当時)が涼しい服装を提唱したことがあった。1970年代後半、羽田孜大臣(当時)が半袖スーツを自ら着用し広告塔になろうしたが、言葉もファッション的にも不評で、見事に失敗に終わったのであった。 (つづく)
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